新型コロナウィルスの感染拡大でWHO(世界保健機構)への注目が世界から集まる中、
WTO(世界貿易機関)の事務局長選が近々行われます。
新型コロナウィルスの感染拡大の影響で多くの国で国境封鎖が行われるなど、経済活動が停滞してしまっており、今後の世界貿易の活性化のためにも、WTOの存在は重要です。
今までに経験したことのない規模のパンデミック。
私たちの生活にも影響しかねない、世界の経済情勢が大変気になりますよね。
今回はWTOについて、事務局長選に関する情報を調べてみました。
WTOとは?
WTOとはWorld Trade Organizationの略で、日本語では「世界貿易機関」と言います。
1948年に発効されたGATT(General Agreement on Tariffs and Trade / 関税および貿易に関する一般協定)が、時代の流れとともに複雑化した貿易や国際情勢に対応しきれなくなり、1995年1月に正式な国際機関であるWTOが設立されました。
本部はスイスのジュネーブにあり、加盟国は2017年3月現在164カ国。
WTOは国家間の自由にモノ・サービスなどの貿易ができるようにするためのルールを決め、貿易障璧を削減、撤廃するために、加盟国の間で貿易交渉を行なっています。
現在の事務局長は誰?

ロベルト・カルバーリョ・デ・アゼベド(Roberto Carvalho de Azevedo)
生年月日 1957年10月3日 (現在62歳)
出身地 ブラジル、バイーア州サルヴァドール
学歴 ブラジリア大学 電子工学部卒
1984年ブラジル外務省に入省し、国際経済貿易分野で経験を積む。2008年からブラジルのWTO大使を務め、2013年9月1日にWTO事務局長に就任。中南米出身者のWTO事務局長選出は初。
WTOの公式言語である英語、フランス語、スペイン語に堪能。
2020年5月14日、新型コロナウィルスの感染拡大で世界経済が揺れる中、アゼベド氏は任期満了の1年早く、2020年8月をもって辞任すると発表しました。
任期の途中で事務局長が辞任した例は過去にないそうです。家庭の事情が理由とのことです。
コロナウィルスで大変な中、予想外の元事務局長の退任。
次の事務局長は一体誰が選ばれるのでしょうか。
候補者を見てみましょう。
出馬した8人の候補者のプロフィール
2020年7月8日に立候補の受付が締め切りとなりました。
最終的に8人が立候補しました。
ヌゴジ・オコンジョイウェアラ (Ngozi Okonjo-Iweala)
I believe in the power of trade to change lives. Today I shared my vision for a reformed @WTO with its members from around the world. Visit my website to find out more 👇 https://t.co/hpG8cH2Vbh
— Ngozi Okonjo-Iweala (@NOIweala) July 15, 2020
生年月日 1954年6月13日 (66歳)
出身地 ナイジェリア、西部州オグワシ=ウク
学歴 イバダン大学インターナショナル・スクールを卒業後米国に留学。ハーバード大学で修士号、マサチューセッツ工科大学で博士号を取得。
世界銀行に25年勤務し、ナンバー2を務めた経歴を持つ。その後ナイジェリアの財務相、外相を歴任。
ワクチンと予防接種のための世界同盟GAVIアライアンス理事長
アミナ・モハメド (Amina Mohamed)
1/ I am pleased to share the brochure outlining my candidature for @WTO Director General.
In my vision statement I outline three key areas – Reform, Recovery and Renewal. https://t.co/VXynnYEYVP pic.twitter.com/0hqOtXdDJs
— Amina Mohamed – Candidate for WTO Director General (@AminaMohamedWTO) July 14, 2020
生年月日 1961年10月5日 (58歳)
出身地 ケニア、カカメガ
学歴 キエフ大学(ウクライナ)、ストラスモア大学(ケニア)、オックスフォード大学
2013年から2018年まで、ケニアの外務大臣および国際貿易大臣を務める。2015年には、ナイロビで開催されたWTO閣僚会議の議長を務めた。
ソマリ語、英語、ロシア語、スワヒリ語、フランス語を話すマルチリンガル。
兪明希(Yoo Myung-hee / ユ・ミョンヒ)
South Korean Trade Minister Yoo Myung-hee’s on the WTO:
“Korea [grew] from one of the less developed countries to [a large] trading nation through the multilateral trading system, so I believe that all other members should have the same opportunities…”https://t.co/yEgCVIQlMe pic.twitter.com/NwHs1fD7de— The Korea Society (@koreasociety) July 17, 2020
生年月日 1967年6月5日 (53歳)
出身地 韓国、ウルサン
学歴 ソウル大学政策学修士、米ヴァンダービルト大学ロースクール
大学卒業後、外交部の多者通商協力課事務官、通商交渉本部の自由貿易協定サービス投資課長、駐中韓国大使館一等書記長、アジア太平洋経済協力会議(APEC)派遣参事官などを歴任。通商分野で長いキャリアを持つ。
現在は産業通商資源相を務める。
ハミド・マムドゥ(Abdel-Hamid Mamdouh)
Senior Counsel at King & Spalding LLP, Abdel-Hamid Mamdouh is one of four Africans vying for the post of the head of the @wto. #CNBCAfrica sits down with him to find out what his chances are and what makes the man tick. He joins us tomorrow from Geneva at 10:00 CAT on #DStv410 pic.twitter.com/W2qRXVoW9P
— CNBC Africa (@cnbcafrica) July 13, 2020
生年月日 不明 (67歳)
出身地 エジプト
2001年から2017年まで、WTOのサービス貿易投資部門の責任者を務める。2017年からはコンサルタントとして働く。
ヘスス・セアデ・クリ (Jesús Seade Kuri)
Jesús Seade Kuri, Mexico’s Undersecretary for North America and Chief Negotiator for the USMCA, has been nominated by #Mexico as a candidate for the post of WTO Director-General. @JesusSeade @SRE_mx @MX_WTO_Mission #WTODGhttps://t.co/loKAS4RY5c pic.twitter.com/xa8Suvecxa
— WTO (@wto) June 8, 2020
生年月日 1946年12月24日(73歳)
出身地 メキシコ、メキシコシティ
学歴 メキシコ国立自治大学(UNAM)にて化学技師の学位を取得。イギリス、オックスフォード大学で経済学修士と経済学博士の学位を取得。
メキシコとレバノン国籍保持者で、大使の称号を持つ。
世界銀行、国際通貨基金(IMF)、世界貿易機構(WTO)の3つの主要世界経済機関に所属した経験を持ち、それぞれ重要な地位での任務を行なった。
2018年12月からは外務次官として北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉を担当。
トゥドル・ウリヤノヴスキ (Tudor Ulianovschi)
Tudor Ulianovschi, Moldova’s Former Minister of Foreign Affairs and European Integration, has been nominated by #Moldova as a candidate for the post of WTO Director-General. https://t.co/oe0hkxzTKd#WTODG@Diplomacy_RM @MoldovainGeneva pic.twitter.com/DjWthLU3uJ
— WTO (@wto) June 16, 2020
生年月日 1983年5月26日(37歳)
出身地 モルドバ、フロレシュティ
学歴 Free International University of Moldova
ルーマニアとウクライナと国境を接する東ヨーロッパのモルドバ共和国出身。15年という長きに渡って外交官を務め、2018年から2019年まではモルドバ共和国の外務大臣を務めた。
ムハンマド・トワイジリ (Mohammad Maziad Al-Tuwaijri)
#WATCH: Mohammad Maziad Al-Tuwaijri, nominated by #SaudiArabia for the post of @WTO Director-General holds a press conference: https://t.co/WDabtyRxuA pic.twitter.com/tegnlHUFzG
— Arab News (@arabnews) July 17, 2020
生年月日 不明
出身地 サウジアラビア
学歴 King Saud University (キングサウード大学)BA修士
サウジアラビア空軍パイロットを経て、銀行業界へ。サウジブリティッシュバンク、サウジアラビアのJ.P.MorganやHSBCの中東・北アフリカにおけるCEOなど、銀行業界での長いキャリアがある。2016年には経済企画副大臣、2017年から2020年3月まで経済企画大臣を務める。
リアム・フォックス (Liam Fox)
MP, @LiamFox joins #KayBurley to discuss his bid to become the next director-general of the World Trade Organisation (WTO).
🕣 8:05
📱 Watch live: https://t.co/nkEhmeDwMn
📺 Sky 501 / Freeview 233 pic.twitter.com/vKPnWZron9— SkyNews (@SkyNews) July 20, 2020
生年月日 1961年9月22日(58歳)
出身地 スコットランド、イースト・キルブライド
学歴 グラスゴー大学メディカルスクール
今回唯一の先進7か国(G7)からの立候補者。大学卒業後、王立陸軍医療軍団で民間陸軍医療官の総合診療医として働く。
その後国会議員に就任。2016年から2019年の間、メイ前政権で国際貿易相を務めた。
誰が有力候補?
まずは、1948年のGATTからの歴代事務局長を振り返って見ましょう。
エリック・ウィンダム・ホワイト (イギリス) | 1948年〜1968年 |
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オリヴィエ・ロング (スイス) | 1968年〜1980年 |
アーサー・ダンケル (スイス) | 1980年〜1993年 |
ピーター・サザーランド (アイルランド) | 1993年〜1995年 |
レナート・ルジェロ (イタリア) | 1995年〜1999年 |
マイク・ムーア (ニュージーランド) | 1999年〜2002年 |
スパチャイ・パニチャパック (タイ) | 2002年〜2005年 |
パスカル・ラミー (フランス) | 2005年〜2013年 |
ロベルト・アゼベド (ブラジル) | 2013年〜 |
このように事務局長がニュージーランドとタイから選出された期間を除けば、事務局長は常に欧州出身者が務めてきました。
アゼベド氏が南米出身者として初選出だったように、今まで選ばれたことのない国や地域の出身者は有利との見方もあります。
また、もし女性が選ばれた場合、女性の事務局長は過去にいないため、今回が初となります。
そうなると、今回女性でアフリカの出身者は、ヌゴジ・オコンジョイウェアラ氏とアミナ・モハメド氏となります。中でもヌゴジ・オコンジョイウェアラ氏は知名度も高く、今回の最有力候補とも言われています。
選挙はいつ?選出方法は?
立候補者は、一般理事会の特別会合で加盟国からの所信聴取や質疑に答えます。
そして通常は約3カ月の選挙運動期間に入りますが、今回は1カ月短縮して9月7日までとなりました。
その後は加盟国協議で支持率が最も低い候補者を脱落させる過程を繰り返すことにより候補者を絞り込み、最終的には全会一致で選出されます。
WTOの意思決定は全会一致形式で、原則投票はしません。
今回は特に選出の難航が予想されますが、WTOは11月常住までに選出を目指す意向を示しました。
アゼベド現事務局長が退任する8月末までにトップが決まらなければ、4人の事務次長のうちの1人が暫定的に代行する。ただし、米国と中国出身の次長は米中対立を背景に双方で反対があると思われるので、おそらくナイジェリアかドイツの次長のどちらかとなりそうです。
まとめ
事務局長の任期は4年。
今回の選挙は、米中貿易摩擦が激化し、新型コロナウイルスのパンデミックで世界経済が混乱している最中、実施されます。
また、上級委員会は昨年、委員指名を巡るアメリカの反対により任期切れ委員の補充ができず、紛争解決システムは事実上機能不全に陥っています。
先ほど、アフリカ出身の候補者が有利との声があると書きましたが、アフリカ出身者が事務局長となった場合、中国の影響力が増すのではとの懸念もあります。
世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長の出身国エチオピアは、中国からの巨額の投資を受けているため、今回の新型コロナウィルス対策では中国擁護の傾向にあるとの批判も多くありました。
新たな事務局長の選出は、さらなる米中対立の激化をまねく可能性もあります。
このような状況下で、次期事務局長はWTOの立て直しという非常に重要な任務に当たることとなります。
まだ新事務局長の決定まで時間がありますが、今回の選挙はいつも以上に世界の注目となりそうです。